xRテックカンパニーが目指す「エンタメのDX」とは?―バルス株式会社
(2020年08月11日掲載)
VR(仮想現実)やAR(拡張現実)などのxR技術を核に、ライブプラットフォーム「SPWN(スポーン)」を展開するxRテックカンパニー、バルス。リアルとバーチャルを融合し新たな体験を創造することでライブのあり方を変えようとしています。2020年4月から5月の1カ月間で100件以上のオンラインイベントを実施、流通金額が1億円を突破したことで注目を集めています。急激に変化するエンタメ業界において、会社の目指すゴールや事業の独自性について、代表の林範和さんにお話を伺いました。(マスメディアン編集部)
──まずは、創業の経緯を教えてください。
創業前は中国資本のゲーム会社で働いていましたが、海外へ出張することも多く、日本のコンテンツが好きな海外ファンの声を聞く機会が多くありました。日本のアーティストが参加する海外のライブやイベントの来場者はすごく熱量を持っています。日本のコンテンツのパワーを改めて感じました。同時に、その会場に行ける人だけではなく、より多くの人に届けることができたら、コンテンツの可能性をより引き出せるのではないかとも思いました。VR・AR技術を活用して時間と場所にとらわれずライブができれば、世界中のファンが参加できる。その仕組みをつくれば、もっと日本のコンテンツ市場を広げられると思いました。同じポテンシャルを感じていた創業メンバーに声をかけ、起業しました。
──バルス社の事業内容について教えてください。
僕たちのゴールは、主催者がどこでも開催できて、ファンはどこからでも楽しめるライブを実現することです。そのために、バーチャルアーティストのマネジメントとVR・AR技術を活用したライブの企画・制作を中心に活動していましたが、最近では、2つの事業をSPWNというブランドで展開して、注力しています。
1つ目の事業が、「SPWN」というxRライブプラットフォーム。あらゆる場所で手軽にライブ配信ができるシステムです。配信元と、複数の会場や端末を同時に接続して双方向でコミュニケーションができます。例えば、東京で開催しているライブを名古屋、大阪、タイなど世界中の会場でライブ配信し、同時にライブを楽しむことができます。
2つ目が、「SPWN Portal」というエンターテインメントに特化したポータルサイト構築支援サービスです。チケット販売、グッズ販売、コンテンツ配信、投げ銭システム、会員管理がワンストップでできるポータルサイトを簡単につくることができるサービスです。アーティストにとっては、ファンを見える化するエンタメのDXツールであり、ファンと一対一でコミュニケーションが図れるCRM(顧客情報管理)ツールでもあります。
ライブイベントは、十数年変わらないビジネスモデルで運営されており、さまざまな課題を抱えています。例えば、ライブ会場は「数が有限」「週末に集中し予約が困難」「都市部に集中」という物理的な制約があります。また、チケット販売、グッズ販売、ファンクラブなど顧客との接点が一元管理されていないため購買行動が把握できていませんでした。それらを改善し収益の最大化を図れるのが、「SPWN」であり「SPWN Portal」です。
バルス株式会社 代表取締役 林 範和さん
──「SPWN Portal」の効果について、もう少し詳しく伺いたいです。
ライブは表現の場であると同時にビジネスの場でもあります。「SPWN Portal」は、そのビジネスの側面を担っています。
具体的には、ファンにアプローチするツールとして活用できます。「SPWN Portal」では、ライブがない時期にも、グッズを販売したり、アーカイブしたライブを配信したりと、収益を上げることが可能です。また、アーティストとファンの接点が一元化されると、ファンの個人情報とチケットやグッズの購買履歴が紐づきます。これまではライブの物販では、実際の購入層や客単価は肌感覚でしかわからず、グッズを買った人がチケットを買った人なのかどうかもわかりませんでした。ファンのデータと購買履歴を管理・分析できることで、宣伝やイベントの企画にも活用できます。
また、どのようなジャンルのイベントであっても、参加型のエンタメ要素を加える必要があると思っています。オフラインのイベントの場合、友人に誘われて行くことも多かったと思います。オンラインのイベントになると、ネット上には無料コンテンツが溢れているため、有料コンテンツはただ配信するだけでは人を集められません。よほど好きなアーティストやコンテンツ以外は参加のハードルが高いです。そこで、有料コンテンツならではの体験をつくり、面白さを感じてもらうことが重要になります。
その点では、先日開催した女子総合格闘技大会「DEEP JEWELS 29」は手応えを感じました。試合名にちなんで、投げ銭をすると画面にダイヤが出るシステムをつくったり、コメントを画面に流せるようにしたり、視聴画面からグッズを購入できるようにしたり、さまざまな機能をつけました。物販では、選手が実際に試合で使った本物のグローブを売ったりもして。大変反響がありました。
──コロナウイルス感染症の流行により、エンタメ業界は大きな影響を受けていると思います。今後どのような変化があると思いますか?
オンラインイベントの需要と供給は引き続き伸びると思います。もとから配信サービスは拡大傾向でしたが、ライブの配信を嫌がり、踏み出さないアーティストも多かったのです。そのような中、コロナの影響で配信イベント以外の選択肢がなくなり、抵抗感を払拭せざるを得ない状況になりました。仮にコロナが収束しても、人気の公演は配信する、という流れができるのではないでしょうか。
オンラインイベント自体のつくり方も変わると思います。これまではオフラインイベントの延長線だったコンテンツも、配信ならではの見せ方や客層に合わせて、つくり方が見直されています。大きくは、アイドルを中心にコアファンに向き合う方法と、裾野を広げて市場を広く取り世界中のファンにコンテンツを提供する方法との2種類があると思います。また、これまで数カ月かけて行っていた全国ツアーなどのイベントも、配信の場合一日で済みますよね。しかしながら、アーティストとしても一日で終わらせたいわけではありません。そうなると、新しいやり方を考えなければならない。例えば、チケット代が6000円から2000円になるのであれば、3回ライブを見てもらって1つのイベントが完結する、といった仕掛けが考えられます。
僕たちバルスとしては、参加者も一緒になってつくれるイベントができると面白いのではないかと思っています。
──それを叶える技術がxRということでしょうか。
5G(次世代通信規格)などの通信技術の進化、AI(人工知能)による表現の幅の拡大、xRにより時間と場所の制約がなくなる、という条件がそろって叶うものです。そもそも、xRはただのメディアです。新しいメディアができると、必ず新しいエンタメが生まれます。xRは3次元のメディアのため、コンテンツづくりが難しいです。2次元の映画では、カメラワークで観客の視線をつくり手が決められますが、3次元では観客がどこを見ても成立するコンテンツをつくらなければならず、演出が難しいからです。その点で、ライブであれば、もとから3次元構造のため、親和性が高いです。参加者は、視点を固定しておらず、好きなところを見ています。映画のようなストーリーコンテンツよりも、リアルタイムのコンテンツのほうがxR技術との相性がいいです。もっとも、今後はVRのストーリーコンテンツも増えていくと思いますが。
──最後に、応募を検討している読者の方へのメッセージをお願いします。
バルスはエンタメが好きで、仕事を楽しんでいる社員ばかりです。趣味で体験したことを仕事に活かせるのは、会社にとっても社員にとっても利点だと思います。また、エンタメにはゴールがありません。自分自身がやりたいと思うところまで突き詰めていくことができますし、同時に、どこまでモチベーションを保てるかが重要になります。課題意識を共有して、同じゴールを目指していける方とぜひ一緒に働きたいですね。
僕たちは単に制作や配信を請負うだけではありません。共同制作する、一緒にイベントをつくるというスタンスです。そうすることで、もっと楽しい企画や演出のアイデアが生まれます。単なる配信ツールを提供するだけだったら、手数料や認知度で他のツールと比較されますよね。僕らは、「バルスと一緒に仕事をすることで、よりクオリティの高いコンテンツが配信できる」という立ち位置を目指しています。
テクノロジーの力で、新しいエンタメ・面白いコンテンツをつくることと、ビジネスとしてエンタメを支える仕組みをつくることの両立を目指されているのだと感じました。今後の展開が楽しみです。本日はありがとうございました!
※2020年7月に取材した内容を掲載しています。
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