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【名古屋特集】マーケットシェアをとるマーケティングから、新しい価値を創造するマーケティングへ─株式会社エイチーム引越し侍

東海

Web・デジタル

マーケティング

名古屋発で、全国区に一気に駆け上がったインターネット業界の雄、株式会社エイチーム。同社の成長のドライバーとなるグループ会社「株式会社エイチーム引越し侍」では、引越し比較・予約サイト「引越し侍」の企画・開発・運営をしています。このジャンルで比類のないポジションを確立している同サービスですが、マーケットリーダーの宿命か、新たな市場を創造し、人に新たな行動様式を定着すべく腐心するマーケターがいます。今回、エイチーム引越し侍マーケティング部マネージャーの森下さんにお話伺いました。(マスメディアン編集部)

──まずはエイチームがどのような会社か、お聞かせいただけますでしょうか?

エイチームは、インターネットを使った多様な事業を展開する会社です。結婚や引越しといったユーザーのライフステージに密着したライフスタイルサポート事業、ゲームなどを提供するエンターテインメント事業、そしてEC事業の3つの柱があります。既存の枠にとらわれず、今後もITを駆使して世の中の課題解決につながるようなサービスを展開していく予定です。

──どのような社内体制なのでしょうか?
ライフスタイルサポート事業に約480名、エンターテインメント事業に280名、EC事業に約60名在籍し、残り80名ほどがコーポレート部門で、合計900名の組織体制となっています。

創業当時は受託開発からスタートし、その後自社で企画開発も手がけるモバイルコンテンツの配信やエンターテインメント事業の運営に力を入れてきました。そして今、会社として拡大戦略の柱としているのがライフスタイルサポート事業です。「みんなで幸せになれる会社にすること」「今から100年続く会社にすること」が当社の経営理念なのですが、そのためには事業を安定的に成長させていく必要があります。エンターテインメント事業のように爆発的な売上・利益増とはいきませんが、人生のイベントや日常生活に密着しているライフスタイルサポート事業は、継続的かつ安定的に売上を伸ばし続けることができるため、エイチームグループとして注力しているのです。

株式会社エイチーム引越し侍
マーケティング部 マネージャー
森下真由子氏

──顧客を「点」ではなく「線」でつないでいく考えで、さまざまなサービスを展開しているのですね。そのなかで森下さんは引越し比較・予約サイト「引越し侍」を担当されてらっしゃるわけですね。
はい、そうです。「引越し侍」は、ライフスタイルサポート事業で一番はじめにスタートしたサービスで、2006年に誕生しました。私は2010年に新卒で入社をしまして、実際に引越し侍に携わるようになったのは2014年5月になります。ちょうど業界トップクラスのシェアになった頃です。

──当初からマーケティング担当としての配属だったんですか?
最初は企画営業職を経験しました。もともと入社当初、ECサービスを担う事業に配属になり、カスタマーサポートから仕入れの商談まで幅広く経験しました。その後、結婚式場探しの「ハナユメ」のチームに異動し、提携先の新規開拓やメンバーのマネジメントなど、3年ほど企画営業を担当していました。そして、社内の人事異動制度で「引越し侍」へ企画営業として異動したわけです。

アサインされた理由は、引越しのさまざまなニーズに対応すべく、チャネルを拡大していくため、とくに法人の転勤時の引越し見積もりサービスに注力していくためでした。

──その後、どのような流れでマーケティング担当になったのでしょうか? 
ちょうどマーケティングチーム内に、営業経験を持った人がほしいというニーズがありました。というのも「引越し侍」のメディアとしての価値をもっと上げられないか模索していたんです。「引越し侍」のビジネスモデルは、引越し会社さまから集客の対価をいただくモデルです。しかし引越しすると、ほぼ間違いなく新生活に向けての準備が必要で、家具を新調したり、家電の設営をしたりと、もろもろ付随します。このため引越し会社さまとのマッチングだけでなく、新生活に関連する企業さまが広告を出稿できるようにしたらメディアとしてもっと価値が上がるのではと考えていたため、マーケティングの部署から声をかけてもらいました。

──そういった背景でアサインされたのですね。それでは現在の森下さんの業務や所属しているマーケティング部についてお話を伺ってもいいですか? 
さきほどお話したメディア価値向上は、それを専門にする部署ができ、引き継ぎました。このため私のメイン業務は、「引越し侍」のマーケティング活動です。私が所属しているマーケティング部が担うミッションは、利用者数増加と認知向上の2つです。その中で、デジタルマーケティング領域は利用者数増加、マスマーケティング領域は認知向上を目指しています。

──森下さんはマスマーケティング領域に携わっていらっしゃるとのことですが、どういった案件を担当されているのでしょうか?
認知度向上のための戦略立案・施策実行・効果検証を担当しています。より多くの人々に効率よく接触するために、テレビCMやラジオCMを活用しています。ラジオCMは「転勤族」をテーマにしたシリーズを4年以上続けているため、引越し侍のCMを知ってくれている方も増えてきました。家族ドラマ風のCMで、転勤族の主人公が転勤に熱い想いを抱きながら出世していくストーリーです。

──面白そうですね! テレビCMもかなりエッジが効いたものですよね? 以前AdverTimesで取り上げられていましたが、このCMについて戦略を伺ってもよろしいでしょうか。
根底にある考えは、どうすれば「引越し侍」が記憶に残るか、ということです。引越しというイベント自体、多くの人は一生のうちに数回しか経験しないため、いざ引越しをする際に「引越し侍」の名前を思い出してもらえるかどうかがとても重要です。そのためCMではインパクトがあって、興味を持ってもらえるポイントをつくるということに重点を置いています。ミュージックビデオ風CM「よやきゅん篇」「HIKAKU篇」「比古志篇」などは、「引越し侍」の名前を覚えてもらうために、耳に残るようなリズムや歌詞をつけました。

2016年1月より公開したミュージックビデオ風CM 「よやきゅん篇」「HIKAKU篇」「比古志篇」

──たしかにリフレインして耳に残りますね。直近のテレビCMではどういったことを意識していらっしゃるのでしょうか。
2018年はミュージックビデオ風CMシリーズの続編として、バリエーションを変えて作成しています。昨年、サービスを訴求するクリエイティブをつくったのですが、認知度や指名検索の伸びを計測すると、一昨年のクリエイティブの方が効果が高いことがわかりました。そのため、まずは多くの人に名前を覚えてもらうことを優先しています。

2018年1月より公開のミュージックビデオ風CM「KUCHI KOMI篇」「覧王(RAN-KING)篇」

──やはり、名前を覚えてもらうことをかなり重要視されているのですね。
引越し比較サイトの分野でトップクラスのシェアになってきたといっても、世の中全般を見渡すと、インターネットを使って引越し会社を選ぶこと自体がメジャーではありません。やはりまだまだ直接引越し会社に依頼することも多いのです。このため当社が狙うべきは、比較サイトのトップシェアではなく、引越しを考えた時に引越しはインターネットで比較して選ぶものだという認識を定着させることです。そのため、圧倒的な認知度を誇る大手の引越し会社に対抗するには、まずは当社の認知度を上げる必要があり、この戦略を取っています。

──今後、引越し比較・予約サイトのマーケットは拡大していくのでしょうか? 
まだまだ広がる余地があるという実感です。若い世代だと引越し前に見積もりを取るのが当たり前になりつつありますが、それ以外の世代にも広げていくチャンスはあると思っています。そのためにはマーケットシェアをとるマーケティングから、新しい価値を定着させるマーケティングへ切り替える必要があるなと。

──たしかにマーケティングのゴールが変わりますね。しかし引越しマーケット自体、エリア採用や地元就職などの引越しを不要とするケースが増え、ダウントレンドなのでは?とも感じるのですが。
たしかにその傾向はありますが、インターネットを使って引越し会社を選ぶという行動に関しては拡大の余地はあります。さらに、引越しを基軸とした新生活の領域でサービスを展開していくことは、さらなるビジネスチャンスにつながると考えています。

──さきほどおっしゃっていた話ですね。最後に、「引越し侍」の今後の展望についてお聞かせください。
まだまだこれからの話なのですが、今年リリースさせていただいた内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室が主導する「引越しワンストップサービス」のパートナー企業に当社が選出されました。引越しをするときに、住民票を変えたり、水道・ガスなどのインフラ関係の整備をしたりと、面倒な手続きがたくさんあります。それらを一括でできるよう、官民連携して整えていきましょうという動きです。そもそも、引越しの際にインターネットで引越し会社を比較する理由は、そのほうが楽でメリットがあるからです。「引越しワンストップサービス」は、まさにその流れに沿うものだと思っています。行政と行動を共にし、業界をリードして、世の中に対してポジションをつくっていく。そういった動きを今後はしていきたいですね。

──マーケットリーダーとして市場を拡大する。そして、新市場を創造していく。貴社の今後の動きにますます目が離せないですね。お話ありがとうございました!

※2018年11月に取材させていただいた内容を掲載しています。

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