デザイナー2.0、これからのデザイナーに求められるものとは?─株式会社タグボートデザイン
(2018年08月10日掲載)
広告業界で輝かしい実績を残してきたクリエイティブブティック・タグボート。そして、その若手メンバーがスピンオフして立ち上げたタグボート2やタグボートデザイン。今回はタグボートデザインの代表である加藤建吾さんに、デザイナーの未来についてお話を伺いました。数々の後進を育ててきたからこそ伝えられる、新時代のデザイナー像について語っていただきました。(マスメディアン編集部)
──タグボートから派生して、タグボート2やタグボートデザインが設立されたかと思いますが、簡単に経緯を教えてください。
約20年前にタグボートができて、当時僕は、アートディレクターをしていました。それから約1年後に、若い世代を中心とした新しい組織をつくることになり、立ち上げたのがタグボート2です。僕とコピーライター、アカウントプランナーの3人でスタートしました。タグボート2として歩んでいくなかで、デザイナーがもっといろいろなことに挑戦できる組織があればいいなと思い、デザイナーの可能性をもっと広げる会社として、タグボートデザインを立ち上げました。立ち上げ当初は、タグボート2から移籍したデザイナー2~3名でスタートしましたが、その後増員し、まる2年経った現在は8名体制となりました。いろんな可能性を持った人が集まることで、新しいことを探っていけるのではないかと期待しています。
──実際にデザイナーの仕事の幅は広がってきているのでしょうか?
かなり幅が広がってきたと思います。たとえば住友生命保険さま「1UP」という商品の案件ですと、最初は商品のネーミングからスタートし、ロゴの企画、テレビCM・グラフィックなどのキャンペーン全般につながり、そこから最終的にはWebプロモーションに連携していきました。
また、今まさにローンチした新しい保険商品の立ち上がりに携わるようになりました。「Vitality」という商品なのですが、これが面白い保険で、運動をしたり健康診断を受けたりすると保険料がどんどん下がっていくというものなんです。さらに、ポイントがたまるとコーヒーショップやコンビニでの割引特典があるというリワードシステムになっています。このような保険だと、Web、特にスマートフォンとの相性が良いので、いまはCMやグラフィックだけでなく、Webサイト・アプリケーションの制作に広がりを見せています。このように、1つのクライアントの1案件が横展開していくので、デザインやアートディレクションの領域が非常に広がっています。今は領域にとらわれることなく、なにをやってもOKという時代だと思うので、新しいことをやらないのはもったいないですよね。ただ、一個人でいろいろな領域に携わっていくことは難しいので、組織としてその可能性を探っていきたいというのがタグボートデザインとしての本題ですね。デザイナーのキャリアや職域を少しでも広げていきたいです。
株式会社タグボートデザイン
代表 加藤建吾氏
──ありがとうございます! デザイナーは昔ながらなカンプ職人ではなく、キャンペーン全体さらにはデジタル施策まで広がりを見せているんですね。では続いて、実際の仕事の流れについて教えていただけますか。
基本的には、広告会社の一般的なフローと同じで、オリエンテーションを受けて、それに対して企画を考えプレゼンテーションするという流れです。当社の場合は、僕がオリエンテーションに参加した段階で、デザイナーにも内容や企画をすぐにシェアしています。スタートは社内のデザイナーみんな横一線で、いいアイデアを出した人の案を採用するという方法をとっています。
──そういった企画出しもデザイナーの職域が広がりますよね。もう少し具体的な事例があれば教えてください。
横浜DeNAベイスターズさまのブランディングを、DeNAさまが親会社になってから、つまり2012年以降担当していて、今年で7年目になるのですが、ロゴやエンブレムのほかに、ホーム・ビジターのユニフォームやイベント用のユニフォーム制作なども手がけています。この場合、アパレルの要素も入ってくるので、自分の持っている知識だけでは当然足りず、理解を深めて視野を広げる必要があるんですよね。女性用のユニフォームだと、若い女性の間で流行っているものを把握しないといけない。そういうときに、やったことがないからできないとか、自分は男性だから女性向けの可愛らしいデザインはわからないと言っていては、仕事として成立しないですよね。広告の仕事は、どんなことも全部受け止めなければならないし、そのためには情報を自分で取り入れる能力や咀嚼する能力が必要なんです。そういう意味で、デザイナーの能力はデザインだけでなくより幅広く必要になります。
また、もう一つ伝えたいことがあって、デザイナーでも言葉にして発信する能力が求められていると思います。デザインにこだわりを持つことも必要ですが、そもそもプレゼンが通らなければフィニッシュまでたどり着けない。クライアントへの提案の説得を忘れてはいけない。そしてその説得のためには、案件に対する知識や、世の中の流れをしっかりと把握することもマストです。その両面を、いつも心がけています。そして、社内でもこの意識を持つように伝えています。
──そのように考えるようになったきっかけはなにかあったのですか?
若手デザイナーへ講演することが多く、よく思うのですが、自分に自信がない人が多いと感じていて、自分のデザイン案を「あまり良くないんですけど」と言って提出してくる人が多いです。つくり手が良くないと思っているものは見たくないですよね。たしかにデザインやアイデアに自信がない時代ってあると思うんですけど、だからこそ別のアプローチから勝つ方法もたくさんあるということを教えたいです。デザイナーの世界は、デザイン一発勝負だと感じている人が多いと思います。たとえば、著名なアートディレクター(AD)に勝つなんて無理だなと思ってしまいますよね。でも現実には勝つ方法を考えなければならない。まともにデザインで勝負しても負けるけど、そのADと同じ山を登らずに、もっと高いところに行き着く別の山がないかを考える。それがデザイン以外のいろいろな要素だと思うんですよね。言葉や論法を使ってプレゼンテーションで勝つことでもいいし、リアルタイムなメディアやSNSを駆使して新しいスタイルの広告手法を示すことでもいいと思うんです。デザインで一本槍というのも大事ですが、それは基本となる芯みたいなもので、それを覆う外側にもっといろんな要素がある。コミュニケーションやプレゼンテーションもそうですし、マネジメントの視点も重要ですね。自分で予算を管理しているデザイナーってすごく少ないけど、それができれば稀有な存在になる。お金の管理をすることで、なにを重視するのかを自分で決められるんですよね。たとえば、マス広告は使わずにWebムービーにしようとか、人件費の予算をカメラマンに大きく割こうとか、そういった判断は、お金を管理しているからこそできるんです。もちろん日々の仕事において、カンプをつくったり、プレゼンテーションをしたり、フィニッシュワークをしたりと地道な作業も多いので、それができた上で、いろんな可能性を探っていくという、双方に興味を持てることが必要だと思いますね。
──地道な緻密さも求められるし、より高い視点も必要だということですね。
そうですね。カンプをたくさんつくったからといってデザインがうまくなるという時代でもないし、新聞広告やポスターのような平面の広告は減って、デザインの領域が少しずつ変わっていると思うので、自分のなかでどんどん試作していかないと。デスクでは教えられないんです。こうやったらうまくいく、いいアイデア出るなんて、ほとんどないですよね。自分で興味を持ってどんどん順応していく人が当社に合うのではないかと思います。
──現在社内にはどのような方がいらっしゃいますか?
経歴はさまざまです。海外から帰ってきたデザイナーもいるし、広告業界ではない別のジャンルからの転職者もいます。僕は、若いときのデザインの能力は大した指標にならないと思っていて、人生においても会社においても、最終的には志がすべてに勝ると思っています。よく、自分はまだそのレベルには到達してないと言う人がいますが、そういう人は一生到達しない。自分を低く見積もっている人は一生低いまま終わってしまう。できる人や可能性のある人は、自分をどこまでも高く見積もっていて、到達できないような目標を立てることで、一つ一つの課題をクリアしていると思うんです。デザインが甘いとかそんなことはどうにでもなる。若いうちは僕のディレクションのもとで学んでいけばいいし、大事なことは、志と、自分の可能性を自分で閉ざさないことですね。
──ハングリー精神を持って、キャリアアップを目指している人を求めているということでしょうか?
僕は、キャリアは結果的にあがっていくものだと思っているので、やりたいことがあってもなくてもいいから、なにかやりたいみたいなことでいいような気がしますね。それがゆくゆくはキャリアを上げて自分の社会的ポジションを築いていくと思うので。賞と同じようなことで、賞をとるのが目的になってしまうと、その作品で世の中を動かすことはできないと思うんですよね。そうではなくて、いい仕事をしたら結果的に賞がついてくる。キャリアにも同じことが言えると思うんです。そういう結果論でものが語れる人がいいかもしれないですね。
──最後に、今後タグボートデザインが目指していくことについてお聞かせください。
今の時代だからこそできるサービスや仕組みづくりを展開していきたいと思っています。たとえばですが、地方創生という領域だと、これまでは私たちが関われるのは告知のポスターくらいでしたが、今後は、そもそもの仕組みやフローをデザインするような時代になっていくのではないかと思っているんです。デザインという言葉の解釈をどこまで広げるかにもよりますが。
──ユーザー体験をデザインするという意味でUXに近いイメージでしょうか?
そうかもしれないですね。社会的な仕組みをデザインする。そういうこともきっと仕事になっていく気がしているんです。非常に興味がありますし、今の時代やらないともったいないと思っています。そういう部分においては、アートディレクターという定義は2000年ごろを境にさまざまなジャンルで解釈が拡大してきたと思います。そろそろその第2波があってもいいのではないかと思っています。今はまだデジタルとアナログの領域が乖離していますが、そんな時代ではなくなると思うんです。現在の仕事は圧倒的にアナログが多いですが、Webがやりたいというわけでもなく、それぞれの境界線がなくなってきている。だから、形にとらわれず、新しいものを貪欲にやっていきたいと思っています。新しいことをやるには大変なこともあるし、時間もかかります。が、ネガティブな部分ばかりを見るのではなくて、志を高く持って、やりたいことのためにふんばっていきたいなと思います。
──たくさんの示唆に富むお話をありがとうございました!
※2018年6月に取材した内容を掲載しています。
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