紙の雑誌の可能性を使い切れ!3号連続完売『レタスクラブ』復活の舞台裏

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クリエイティブ


創刊30周年を迎える老舗雑誌『レタスクラブ』の快進撃が続いている。今年3月25日のプレ月刊化号から3号連続の完売を達成。売れ行きの芳しくなかった老舗主婦雑誌が、復活を遂げた舞台裏には、何があったのか。1年前に就任した松田紀子編集長に、編集部再生の取り組みを中心に語ってもらった。


松田紀子(まつだ・のりこ)
KADOKAWA『レタスクラブ』編集長。長崎県出身。大学卒業後リクルート九州にて『じゃらん九州発』の編集に3年間携わる。その後、メディアファクトリーにてコミックエッセイを立ちあげ、『ダーリンは外国人』などのミリオンを創出。2013年コミックエッセイ編集部編集長就任。KADOKAWA合併後の2016年6月より、コミックエッセイ・レタスクラブ編集課 編集長就任。書籍と雑誌両方の編集長を務める。
 
■ムードから変える。編集部改革のための10の取り組み



『レタスクラブ』は今年創刊30周年を迎える。夕飯の献立やお掃除の方法、整理収納の技、節約法などを紹介する老舗主婦雑誌だ。

1年前、私が編集長に就任したときは月2回発行の隔週誌で、正直売行きは芳しくなかった。編集長就任にあたり、会社から与えられたミッションは、「コミックエッセイを取り入れながら、『レタスクラブ』の誌面刷新を図ること」だった。これまでのコミックエッセイのコンテンツや経験を生かして、レタスクラブの部数を伸ばすことが求められていた。

レタスクラブの誌面改革は、大きく2段階で行っている。6月に編集長に就任し、マイナーなリニューアルを重ねながら、周年号となる11月売り号のタイミングで連載を大幅に見直した。コミックエッセイを数本新たに投入し、連載を改訂。その後翌年春に月刊化するタイミングで構成・特集、そしてデザイナーも変え、大きくリニューアルを果たしている。


月刊化およびリニューアル以降の号。プレ月刊化以降、3号連続完売を達成した。

その結果、おかげさまで、3月25日発売号のプレ月刊化号から3号連続で完売する快挙を達成。特にコンビニでの売上げは号を追うごとに増えている。出版業界が直面している「紙媒体はウェブに押され劣勢」、という状況に一筋の光を照らす事例ではないだろうか。

これからお話しする10の取り組みは、私がその過程で何をしてきたのかを、自分の視点でふりかえってまとめたものだ。

編集長に就任してまず感じたのは、ムードの停滞だった。『レタスクラブ』の編集部員は、ベテラン10年選手が多い。中には入社以来レタスクラブ一筋という編集部員もいて、よく言えば真面目なのだが、外から来た人間の目線で見ると、守りに入りすぎていると感じた。「レタスクラブはこうあるべき」という、作り守り上げてきたイメージにこだわりが強い。編集会議でも持ち寄った案を各自が発表するだけで、自分から率先して発言する姿があまり見られない。それはそれは、おとなしい状態だった。

これでは到底イキのいい雑誌は作れないと感じ、まず取り組んだのが、編集部の改革だ。

編集コンテンツの改革というよりも、組織再生のような話かもしれないが、いま紙のメディア作りに携わっている人たちに、少しでも参考になればと思う。

1)自由に発言する空気を作る
まず、編集会議をブレスト形式に変えた。みんなの発言をどんどんホワイトボードに書いて可視化する。押し黙るメンバーには、「間違ってもいい。正解はない。だから思ったことを言ってみて」と促し、自分の意見が即企画に反映される実感を持たせた。

例えば、夏に発売する号の企画会議では、「夏と言えばどんなイメージ?」と問いかけ、どんどんキーワードを出していく。「暑い」「子どもが家にいる」「台風で野菜の値段が高くなる」「ご飯をつくりたくない」など、何でもいい。夏の企画を冬に考えていると、どうしてもリアルな季節感とかけ離れてしまうから、これはリアルな夏の感覚を取り戻すための試みだ。

これまでは、「去年の号はこうだった」と昨年ベースから発想していた。それでは新たな企画は生まれない。去年の踏襲ではなく、リアルな季節感や読者ニーズから企画を発想してもらいたいと思った。キーワードやテーマ、方向性をざっくり見つけ、あとは誌面として実際に表現できるのか、経験豊富な編集部内の料理班・特集班が検討し、判断する仕組みだ。

4月25日発売号の「手間なしおかず」は、まさにそのようにして生まれた特集。「GW中に売れる企画って何だろう?」から発想し、連休にまつわる主婦の悩み(家族と出かけてへとへとに疲れているのに料理を作らなければいけないetc.)から考えていった。それまでレタスの特集は“素材切り口”がほとんどだったが、これは「へとへと」という感情と共感をベースにし、新しい企画になった。


手間なしおかず」特集。「買い物がいや」「包丁を使いたくない」「片付けがいや」など、「料理がいや」な気持ちをブレイクダウンして、解決するレシピを紹介。

2)雑誌の危機的状況を認識させる
POSや実売率をつまびらかにし、メンバーにも共有した。数字を「自分ごと」化することを心がけた。

3)読者調査をし、リアル主婦の悩みやつまずきを探った
私達のように出版社で1日働いていると、リアルな読者の生活は見えなくなってくる。

彼女たちが何に悩み、ジレンマを感じているのか、じっくり取材しレポートで共有した。

現在、私は次の3つの方法で読者の声を聞いている。

1.リアル読者のコミュニティ「レタス隊」。LINEなどで、これから行う特集テーマを投げかけて意見を聞いたり、商品モニターや月1回のミーティングに参加してもらう。

2.息子が所属する野球部のお母さんたち。よりカジュアルにお母さんの生活を知りたいときに協力してもらっている。「(片付いていない)部屋の写真を送って!」と言うと赤裸々な写真をばんばん送ってくれる。気兼ねない関係なのがいい。困っていることや愚痴もどんどん聞かせてもらう。

3.誌面で募集する各号ごとの読者アンケート。Twitterエゴサーチ。

4)「思い込みを捨て、思いつきを拾う」発想の転換
この言葉はテレビで小林幸子さんがおっしゃっていたもの。編集も長くなるとつい、「思い込み」で企画を立ててしまいがちなので「思いつき」を形にするように促した。

例えば、この「思いつき」で実現した企画のひとつが、8月号でのゆるキャラ「カパル」とのコラボレーション。実はこのカパル、料理上手という設定があって、Twitterで「レタスクラブを見てお料理をしているお」とつぶやいているのを発見、「いつでも遊びにおいでよ!」とすかさず話しかけた。そこからTwitter上で会話が盛り上がり、ついに誌面の企画にも参加してもらうことに…。おかげさまで、カパル君の出る号はカパルファンの皆さんからも注目していただいている。

 


販売面での工夫という面では、単行本(『1週間で8割捨てる技術』)をほぼまるまる1冊付録でつけるチャレンジもした。200ページ強の単行本の半分以上が読める「レタスクラブ版」だ。続編の新刊がまもなくKADOKAWAから発売されるということで、実現した社内コラボだ。夏は元々、毎年売り上げの下がる時期。それゆえチャレンジ号と位置づけた。


かっぱのゆるキャラ「カパル」とコラボした8月号。単行本の付録もこの号で。大特集とこうした小さなフックの組み合わせで、「表紙に3つ以上引っ掛かりを作って買ってもらう」ことを意識。

5)広告営業部、雑誌販売部と仲良くした
雑誌はどうしても「営業部、販売部VS編集部」になりがちだ。しかしそれは媒体にとっては非効率。広告営業や販売部のメンバーと互いにニーズと目標を共有して、なるべく多くミーティングを開くようにした。「問題点があるなら改善していこう」と、互いに協力し励まし合う体制づくりに努めている。

6)個人のツイッターアカウントを開設、発信を促した
メンバーのSNSへの苦手意識を払拭するため、Twitter運用講座を開き、実践させた。人気の作家、たかぎなおこさんにメンバーの似顔絵を依頼しアイコンを統一、フォロー側が「集めたくなる」しくみをつくった。


編集部員のTwitter。アイコンは同じイラストレーターさんに描いてもらい統一。現場のこぼれ話などを各自発信している。

7)嬉しいニュースは小さくても共有
ほんの小さな兆しであっても、嬉しいニュースはメンバーに共有。自分たちが評価されていること、期待されている事実を伝え続けた。

8)外注化の促進
今まで依頼したことのない外部のライターさんなどを積極的に起用し、記事のリフレッシュ化に務めた。そもそも編集部はこれまで外注をほとんどしておらず、「内制主義」の文化があった。レシピなど独特の書き方が求められる記事は自分が書いた方が早いと編集者は考えるが、そのようにノウハウが守られていく一方で、記事の書き方がマンネリ化するという現状もある。

記事を新鮮にするという意味でも、編集部員の残業を減らすというマネジメント視点からでも、外注は必須。自分のやり方を言語化するという意味でも、より促進していきたいと考えている。

9)新規ジャンルの連載を開始
私はもともとコミックエッセイの編集者なので、人気作家のコンテンツを多数投入。実用系、芸能系の連載も開始し、読者層の拡大を狙った。


 
10)「正しさ」よりも「楽しさ」を追求
以前はどちらかと言えば真面目で教科書的な記事が多く見られたが、「楽しさ」を追求するようオーダーした。これは私が、「ひとは楽しい方についてくる」という持論があるから。

結果、編集部の雰囲気は明るくなり、チャレンジを怖れない体質に生まれ変わった。もともと持ち得ていた、メンバーの実直で誠実な仕事ぶりが実を結び、3号連続完売という快挙を成し遂げたのだった。

今、レシピはウェブでも見られるし、料理動画も広がっている。けれど、私たちの雑誌に載っているレシピは、全部プロの料理家が読者のために、「味はそのまま、手順は簡単に」間引いて考えてくれているものだ。その2つの魅力に気づいてからは、ウェブのレシピに対する競合意識は持たなくなった。料理動画にインスピレーションを得て、詳しいレシピを調べた先に、レタスのレシピがあればいいと思っている。

編集部の合言葉の一つは、「紙でできることをやろう」だ。今や紙がネットを追い抜くことは難しいだろう。けれど、紙にしかできないことは何かと考えたときに、まだまだやれることは見つかる。人気となった「ピーナッツのお絵かきブック」は、まさにそのようにして生まれたものだ。実際、誌面に描いてみよう!という紙ならではの特性を活かした企画だ。

よく、「どうしたらヒットを作れますか?」と聞かれるけれど、ヒットを作るのに一番大事なのは、まず「ヒットを作る」と決め、それに沿った行動することだと思う。右肩下がりの出版業界の状況を嘆いているだけではヒットを生むのは難しい。

書籍と違い、雑誌はチーム戦だ。個人の強みと特長を活かしつつ、フォローしあいながら、共通の目的に向かって編集部という「チーム」でこれからも前進していく。
創刊30年目にして再生した『レタスクラブ』が、次はどんなチャレンジをしていくのか、私自身想像がつかず、ワクワクしている。



(編集会議 編集部/宣伝会議 AdverTimes)