サンダンス映画祭グランプリ受賞、長久允監督の短編映画がついに公開

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■9000本の中からグランプリに

今年1月にアメリカ・ユタ州で10日間にわたり開催されたサンダンス映画祭。クエンティン・タランティーノ、ジム・ジャームッシュなどを見いだし、映画関係者が注目するインデペンデント映画を対象とした映画祭だ。その短編部門で今年、日本の出品作品がグランプリに選ばれた。この作品は、電通 CMプランナー 長久允さんが脚本・監督を務めた「そうして私たちはプールに金魚を、」である。


長久允(ながひさ・まこと)
電通 第3CRP局 CMプランナー/映画監督



短編部門への応募数は9000本、そこからさらに絞られ、会場で68本の作品が上映され、投票が行なわれる。実に狭き門であり、日本人としては同映画祭で初のグランプリとなる。「有給休暇15日で撮り上げた映画です」と、長久さん。

映画は、2012年に埼玉県狭山市で実際に起きた事件がベースになっている。4人の女子中学生が「プールに泳ぐ金魚の姿がきれいだと思って」と、400匹もの金魚をプールに放流し、書類送検された事件だ。

「学生時代からずっと映画を撮りたいと思っていたのですが、仕事を始めてからなかなか機会もなく、ひたすらネタをストックする日々でした。そんなときに、ネットでこのニュースを見たら、みんなが“エモい”“熱い”と盛り上がっていた。“映画化すればいい”という声もあり、その事件から2年経ても誰も撮る気配がなかったので、じゃあ、これを撮ってみようと」。




『そうして私たちはプールに金魚を、』 短編映画(27分39秒)2016年制作
※4月8日(土)より渋谷ユーロスペースで1週間限定レイトショー(料金:800円均一 劇場窓口にて販売、当日券のみ)



長久さんはこの事件をベースにした物語の企画書を、若手映画監督を応援するプロジェクト「MOON CINEMA PROJECT」に応募。見事にグランプリに選ばれ、短編映画製作費を得ることができた。そして、映画製作に知見のあるロボットの協力を得て、2016年春に事件が起こった狭山で撮影した。

「さすがに事件をおこした当人たちに話を聞いてはいませんが。できるだけリアリティを持って描きたかったので、撮影前に狭山で細かくシナハンし、実際に彼女たちが歩いり、遊んでいた場所で撮影しました」。

物語は、埼玉県狭山市が舞台。東京に近い位置にありながら、東京をどこか遠くに感じて出ていくことができない4人の女子中学生の日常が綴られる。学校、地元のゲームセンター、カラオケボックス、プール、お祭りと場面はどんどん移り変わり、物語は速いテンポで進んでいく。カメラも固定ではなく、主人公たちの気持ちのブレやノイズ感を表現するために、シーンによってiPhoneで撮影した映像も使っているという。

「わずか30分の尺に40シーン以上入っているんです。この10年、映画を撮れたらやりたい!と思っていたことを全部つめこんだので、スタッフは大変だったと思いますが、100%実現できたので、僕は本当に楽しかったです」。

さて、映画を見る限り、日本のローカルど真ん中とも言える映画だが、サンダンスなど海外映画祭ではどんな評価が寄せられたのか?

「当初は女子中学生やお祭りなど日本らしいエキゾチズムが受け入れられるかなと思っていたのですが、それよりも都市に出られないローカルな町の閉塞感や10代の屈折した感情に共感を覚えてくれた人が多くて、“これは私が10代のときの話だ”と言ってくれたおばあさんも。主題歌として使った『17才』(南沙織のヒット曲)の歌詞もきちんと伝わっていて、上映後、みんなが歌ってくれたんですよ。“親、死なないかな”“戦争起きないかな”という台詞もブラックユーモアとして受け止めてみんな笑ってくれたし、自分が思っていた以上にユニバーサル感のある仕上がりになっていたことに現地で気づかされました」。

同作品は3月にフィンランドのタンペレ映画祭でも、フィクション部門最優秀賞を受賞した。日本では完成時に関係者だけを集めた試写会での上映のみだったが、4月8日より東京・渋谷ユーロスペースでの1週間限定のレイトショー上映が決定。また上映に先駆け、特設サイトも設けられ、4月1日からはオンラインで海外版を先行公開する。

今後について、長久さんは「映画でやりたいネタはいっぱいありますが、必ずしも映画業界でやっていきたいわけではない」という。「CMで培ってきたことを生かして、CM、映画、ネットムービーなどにこだわらず、面白いコンテンツがつくれたら、と思っています。いい話とか感動ものは苦手なので、エンターテインメントで(笑)」。




■スタッフリスト

監督・脚本:長久允、エグゼクティブプロデューサー:田中雄之、プロデューサー:横山治己、撮影:武田浩明、照明:前島祐樹、サウンドデザイン:沖田純之介、現場録音:林武史、美術:栗林由紀子、助監督:長田亮、制作進行:橘川大地、編集:稲本真帆・金子雄亮、音楽:丸橋光太郎、衣裳:下山さつき、ヘア・メイク:光野ひとみ、金魚飼育:鈴木康生、メイキング:今田哲史、キャスティング:大杉陽太、池澤響、海江田順子、製作:Moon Cinema Project、制作プロダクション:ロボット、配給:コトプロダクション

 

ecd:エグゼクティブクリエイティブディレクター/cd:クリエイティブディレクター/ad:アートディレクター/企画:プランナー/c:コピーライター/d:デザイナー/演出:ディレクター/td:テクニカルディレクター/flash:flash制作/me:マークアップ・エンジニア/pgr:プログラマー/epr:エグゼクティブプロデューサー/pr:プロデューサー/pm:プロダクションマネージャー/ap:アカウントプランナー/ma:録音/st:スタイリスト/hm:ヘアメイク/crd:コーディネーター/i:イラストレーター/cas:キャスティング/ae:アカウントエグゼクティブ(営業)/na:ナレーター



長久允 ながひさ・まこと
電通 第3CRP局 CMプランナー/映画監督

代表作は、モンスターストライク「戸愚呂(姉)」、THE YELLOW MONKEY「イエモン入門」「JAM新聞広告」、T.M.Revolution「株式會社 突風」、docomo「ドコモダケ」シリーズほか。受賞歴に、カンヌ国際広告祭ヤングライオンFILM部門メダリスト、ACCラジオ部門ゴールド(2016)、OCC最高新人賞(2015)など。公式の場では三つ編み。


(ブレーン 編集部/宣伝会議 AdverTimes)