固有の価値観や商慣習の強い自動車業界でサービスインするには“文化づくり”が必要―IDOM(旧ガリバーインターナショナル)

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企業特集

車買取・中古車販売大手のIDOM(旧ガリバーインターナショナル)。同社は、中古車販売事業だけでなく、自動車関連の各種サービスを一体化して捉えるCaaS(Car as a Service)戦略を立てており、それに呼応するようにさまざまな新規事業を展開しています。IDOMの考える経営戦略について、また新規事業のサービスインやマーケティング戦略について、CaaSプラットフォーム推進責任者の天野博之さんにお話を伺いました。(マスメディアン編集部)

――近年、新規事業としてGulliverフリマ(個人間での売買の仲介サービス)やNOREL(定額でさまざまな車をレンタルできるサービス)などを展開されていますが、立ち上げの経緯やサービスの概要について教えていただけますか?
各社報道でご存知の方もいるかと思いますが、大前提として、人々にとっての車の価値が、「所有するもの」から「利用するもの」へ変化しているということがあります。車を所有する人が減少しているなかで、当社の事業を成長させていくためには、それに代替するような選択肢を提供していかなくてはならない。こうした背景から新しいサービスを複数立ち上げており、それらが統括されて「CaaS(Car as a Service)」戦略へとつながっていきます。CtoCで車を売買できるECサービスのGulliverフリマについては、「所有する」ための手段の多様化に対応し、EC上で車を手軽に売買するということに加え、手軽に売り買いができるプラットフォームが必要だという考えから生まれました。我々はもともと車の買い取りから始まっているので、ただ、EC上で車を売るだけでなく、車の売り買いすべてを網羅したかった。また、車は生命に関わるモノなので、自動車関連事業を展開してきた我々だからこそ、安心・安全を担保できると思うんです。そういった意味で、当社がこのサービスを提供している意義は大きいのではないかと思っています。

――NORELについてはいかがでしょうか?
車って地域や用途によってさまざまな使い方がありますよね。NORELはそういったシーンごとの需要に対応できるサービスです。たとえば首都圏だと、車を持つことがコスト高になるので、いつでも持たない生活に戻るために利用したり、夏はスポーツカー、冬はスタッドレスタイヤの四駆に乗るというように、嗜好性やニーズに沿ったサービスを提供できます。ただ、車を利用する人のほとんどが車に対する知識はほとんど持っていないんですよね。車検をしないといけない、タイヤやエンジンオイルを変えないといけない、となんとなくわかっていても、その良し悪しなんてわからない。NORELだと、自分の車でないとはいえ、一定の月額を払っておけば、安全・安心が担保されるし、いらなくなった瞬間に手放すことができる。無駄なリスクを避けて車を所有することができるんです。

――さらに、新しくカーシェアリングのサービスを立ち上げると伺ったのですが、NORELとの住み分けも含めて詳しくお話いただけますか?
「所有」が売り買いを指すとすれば、NORELは「所有」と「利用」の間にあります。所有してはいるけど、厳密に言うとリースの延長なんですよね。一方、カーシェアというのは、スポットでの利用なので、より「利用」に近づいた位置づけになります。では、レンタカーとなにが違うのかというと、我々はCtoCのカーシェアリングをやろうと思っているので、まず価格が安いんです。そして、他社さんでもBtoCのモデルは既に展開されているのですが、そうした場合、駐車場起点で車が設置されているので、近くに住んでいない人にとっての利便性が高いとは言えないですよね。車を持っていない人、持ちたくても持てない人たちが、低価格で乗りたいときに、乗りたい車に乗れるということ考えると、結論としてCtoCという形だったんです。また、遊休資産の有効活用という側面もあります。現在日本では約6000万台の車が流通しているのですが、稼働しているのはそのうちの2%ほどなのです。それを近くで必要としている人に貸す、という世界をつくっていくのは非常に有効的なものになるのではないかと考えました。

――CtoCというビジネスモデル以外にも貴社ならではの強みはありますか?
EC上だけでなく、店舗起点でのサービスも提供できるという点ではないでしょうか。実際、車を一番持て余しているのは年配の方なんです。外出頻度も減って車もあまり使わない、でも車は持っていたい。それではもったいないから誰かに貸してあげようとなったときに、自分でEC上から手続きをするのは彼らにとって難しいですよね。そういった部分で、我々が店舗起点で代行したり、今後の話にはなりますが、車を買うことを投資と見立てたときに、車をお預かりして運用する、というようなこともできるのではないかと考えています。ECでの運用だけなら他のIT企業にもできますが、乗るということにおいて、人と車の本質的なマッチングを追求するのであれば、店舗起点は有効になってくると思いますし、それは我々にしかできないことなのかなと思います。

――なるほど、たしかに店舗を持っている点は優位点になりますね。ちなみに現在、他の企業との提携も進めているとのことですが、具体的にどういった連携を図っていくのか教えてください。
たとえば、車の稼働を現在の2%から5%まで引き上げられたとしても、それだけでは課題が残ります。今でもこれだけの渋滞が発生しているなかで、稼働が増えればさらに渋滞を起こしてしまう。そうすると交通不全を起こしてしまうので、車だけではなく、公共交通も一緒になって「MaaS(Mobility as a Service)」に取り組んでいかなければならない。車を、あらゆる移動手段のなかの一選択肢として捉えて、それを最適化していくことが必要なんです。それは我々だけではできないので、他の会社さんと提携しながら考えている最中です。ただ、やはり車はインフラ産業なので、少しでもビジネスモデルや今までのやり方を変えると、業界内でも反発が起こったり、人々にとっても、便利になったとはいえ不安がつきまとったりします。そのため、単純にプロダクトを流行らせて終わりということではなく、現在の生活様式に沿ったサービスや、将来必要とされるサービスを考えていかないといけないんです。そういう意味で、自動車業界におけるそれぞれのプロダクトの成長戦略というのは、事業企画の要素よりも、いかに使ってもらうかというマーケティング要素のほうが強いと思うんですよね。車って日常的に目にしているものなので、単純に認知度を上げる必要はないんです。使い方や携わり方の提案をすることで、改めて、車って便利だなと思ってもらえる瞬間を多くつくっていくべきだと思っています。

経営戦略室  CaaSプラットフォーム推進責任者
天野博之さん

――利用に沿ったマーケティング視点を必要としているんですね。現在のチームとしては、どのような体制になっているのでしょうか。
現在、社内で変革の最中なので、今後変わっていく可能性もあるのですが、サービスごとの組織体として成長していくイメージを持っています。Gulliverフリマという組織のなかに、事業企画や営業、マーケティングがある、というイメージで、少しずつ形になってきています。ただ、現状としては、サービスを兼任してマーケティングをやっているという状態なので、今後ブレイクさせていくためには専任の担当が必要だと感じ、現在募集をしています。全体の設計は今いるメンバーでつくっているので、それをいかに具現化していくかという部分を担っていただきたいです。

――具体的にどのようなスキルやマインドを持った人材に来ていただきたいですか?
自動車業界で新しいサービスを展開することは、文化づくりに近いんです。そういうことを楽しめる人ですね。文化づくりとは、今までなかったサービスを流行らせていくということですが、たとえばNORELもカーシェアリングも、ほかに同じようなサービスはあるのにそこまで根付いていないんです。それがなぜなのかを考え、今までの経験を活かして、それを乗り越えていくことを楽しめる人でないとできないと思います。サービスをブレイクさせていく手法をたくさん知っている方に来ていただきたいですね。あとは、自社サイトの運営の知見を持ち合わせている人材も現状あまりいないので、サイトモニタリングがきちんとできて、それに対してビビットに反応しながら次にどうするべきか、という高速PDCAを回しつづけ、サイトパワーを押し上げていけることができるスキルも求めています。一方で、単純に流行らせていくということにおいては、オフラインも絶対に必要で、そういったことも含めて、カスタマーとコミュニケーションをとりながら1つのサービスを推進していけるような方がいいですね。あと、みなさん懸念されているかもしれませんが、自動車業界の知識は必要ありません。そこは既存の社員がフォローしていくので、今の当社にないメディアやマーケティングのノウハウを持ってきていただけたらありがたいなと思っています。

――最後に、文化づくりというお話がありましたが、天野さんご自身の考えとして、これからつくっていく文化とはどのようなイメージを持っていらっしゃいますか?
たとえば今後展開していくカーシェアリングで考えると、「安心」「安全」「簡単」の3つをいかに担保できるかだと思っています。安心して買える、売れる、貸せる、借りられる、安全に車に乗れる、それが簡単にできる、ということをどこまで突き詰められるかなんです。車というものにおいて、それを実現することは非常にハードルが高いです。いろんな規制もありますし、車という大きなものを前提としたときに、それらを担保するには1社では完結しないことですし、テクノロジーも取り入れていかないといけない。ほかにもさまざまな要素がありますが、絞っていくとその3つをいかに進化させていけるかにこだわっていきたいです。そのためには、これまで、売る・買う・貸す・借りる、でそれぞれ分断されていたモビリティサービスを全部つなげていきたいと思っています。内側で複雑に絡み合えば合うほど、カスタマーにとってのUI・UXはシンプルになると思うので、そこまで追求していきたいというのがCaaS戦略でもあります。

――貴社の目指していく世界が具体的にイメージできました。貴重なお時間ありがとうございました。

※2018年9月に取材した内容を掲載しています。