Webディレクターの40歳定年説。それって本当ですか?【Webディレクターの未来を考える座談会・後編】

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クリエイティブ

Webブラウザが生まれてから四半世紀が経った。大手から中小企業までWebサイトを持つことが当たり前の時代になり、その制作から運用までを導くWebディレクションという技術も体系化された。一方でWebサイトが当たり前の存在になったからこそ、企業内の体制面や個人のスキルなど、新たな課題も生まれている。

そこで、今後の企業にとってWebサイトやWebディレクションはどうあるべきか、Webディレクターとして第一線で活躍する、デスクトップワークス 代表取締役・田口真行氏、ビットエー メディア戦略室室長の中村健太氏、ブランド戦略室室長の高瀬康次氏が語った座談会の後編になる。

前編はこちら

■必要な要素はプランニング・マネジメント・マーケティングの3つ


左)ビットエー メディア戦略室室長 中村健太氏
中)デスクトップワークス 代表取締役・田口真行氏
右)ビットエー ブランド戦略室室長 高瀬康次氏


田口:ズバリ言うと、「Webディレクター」という存在は、Webをビジネスに活用したいけれど技術面を理解していない人と、実際にWebサイトをつくる人とを「つなぐ役割」です。その橋渡しをする時に、必要になる能力としては「プランニング」「マネジメント」「マーケティング」の3要素。

依頼者の要望をヒアリングして引き出し、アイデアを発想しながら企画を立案し、それを形にするための設計をして、つくる人たちをハンドリングする。そして、その全体をマネジメントしていきます。




田口 真行氏
デスクトップワークス 代表取締役
1999年、フリーのWebディレクターとして独立後、デスクトップワークスを設立。企業サイトの企画~設計~制作~運用を手掛ける傍ら、独自手法のディレクションを題材にした実践型の研修講師として全国各地での講演活動を実施。また、Webディレクター向けのライブ配信番組「田口真行のWebディレクション講座」や、セミナーイベント「エンタミナ」の主催など幅広く活動。著書に『現場のプロが教えるWebディレクションの最新常識 知らないと困るWebデザインの新ルール2』(エムディーエヌコーポレーション、共著)、『第一線のプロがホンネで教える 超実践的 Webディレクターの教科書』(マイナビ、共著)。


高瀬:そうですね、プロジェクトを円滑にまわすためのハブとしての役割がWebディレクターだと思います。さらに、立ち回り方には人それぞれに特徴があって、マーケティングに強いのか、それともマネジメントやプランニングに強いのか、またはシステムやクリエイティブに強いのか。その人の適正やキャリア次第で変わってきます。

田口:仕事のできるディレクターは、自分が苦手な部分がどこかちゃんと把握できてますね。その上で、クライアント状況を適切に見極めながら、そこにマッチするサービスを、自分が苦手な点を補いながらバランスよく提供できている。

ただし、ひとりのWebディレクターが全部の領域を担当してしまうと、その人が会社を辞めたときに代わりが見つからなくなります。そこで、さきほどの3つ要素を俗人的にならないように対策を打たなければいけない。


■クライアントの事業理解と、コスト管理は必須

高瀬:Web制作会社のWebディレクターは、クライアントの事業に対する理解が必要です。制作畑出身の人はつくること自体が、目的になってしまっているケースが実は多く、この事業理解が不十分なケースがあります。


中村:あるWebディレクターから「営業担当者が受注してくる案件が収益です。それを伸ばすために、回転率を上げることが僕らの役割でしょうか」と質問されたことがあります。クライアントの事業を理解することへの意識が希薄だなと感じました。


中村健太氏
ビットエー メディア戦略室室長
BITA デジマラボのプロデュースやAIカンバセーションエンジンの開発など、様々な分野で活動するマルチディレクター。KaizenPlatformのグロースコンサルとしても知られ、2014年より日本ディレクション協会の会長を務める。主な著書に『現場のプロが教えるWebディレクションの最新常識 知らないと困るWebデザインの新ルール2』、『第一線のプロがホンネで教える 超実践的 Webディレクターの教科書』など。


田口:たしかに、そこは難しい。Web制作会社も、時には回転数をあげていることも必要だったりしますし。

高瀬:会社のスタンスによるでしょうね。回転数が早いと利益が上がるモデルもあるし、クオリティが高いものをつくることで利益が上がるモデルもある。

ただし、今回のプロジェクトが目標としている数値は何で、その数字に近づけるためには何をすべきなのかという前提に対する理解がないと、本来の目的とずれたことをしてしまう。

中村:それをすぐに理解できるくらいにならないと、Webディレクターがハブとして機能しないですよね。今後は複数社が関わるプロジェクトが増えていくでしょうし、ますますハブになる人間を育てていかないと。

田口:もうひとつ、Webディレクターに絶対に必要なのはコスト意識。

高瀬:たしかにWeb制作は、どのスタッフがどのぐらいの期間にわたって稼働するのか原価を計算する必要があります。その結果、今回の予算に対して、赤字にならずに利益が出る、そして施策による成果も出るようにしないといけない。

田口:Web制作会社を経営していて思うのは、昔は「徹夜してがんばっています」という会社がクライアントから好まれていた傾向がありましたが、今はそういう会社は避けられるかもしれない。

高瀬:それは感じます。要は、その会社は工数管理などのマネジメントができていないってことですからね。



■50歳、60歳のWebディレクターが活躍する業界にしたい

中村:Webディレクターのキャリアアップの話をすると、プランニングが得意な人であればプロデューサーに、一方でマーケティングが得意な人なら事業を始める、さらにマネジメントが強ければマネージャーや人事になれるかもしれないと思います。


高瀬:僕らの仕事は、専門職でありながら、知識の幅が広いため「総合職」の要素を持っていますよね。今後は、どのような業態でもITが企業活動の中心にくるので、人材としての需要は計り知れないと思っています。そういう意味では、可能性がある仕事だと思います。


高瀬康次氏
ビットエー ブランド戦略室 室長
2000年頃にWeb制作の技術を独学で習得し、個人で制作を受託するなどして活動。その後、不動産と広告の業界で営業職を経験し、06年にWebディレクターに転身。08年に独立し、デジタルマーケティングオフィスDCHSを設立。13年より、日本ディレクション協会の設立に参画し、広報部長、デジタルマーケティング推進室長を歴任。14年よりビットエーに所属し、主に大規模サービスの制作・運用ディレクションを担当。16年より広報、採用、教育を統括するブランド戦略室を立ち上げ、室長に就任。現在は企業ブランディングを専門に活動中。主な著書に『現場のプロが教えるWebディレクションの最新常識 知らないと困るWebデザインの新ルール2』、『第一線のプロがホンネで教える 超実践的 Webディレクターの教科書』など。


田口:Webディレクターの「Web」が、別の何かに置き換わって色々な分野でディレクションをするということもありえるかも。例えば、映画監督がいきなりWebディレクションをできるかというと難しいと思うのですが、逆にWebディレクターであれば、映像がつくれる人やシナリオを書けるライターをハンドリングできるという意味で、“映画っぽいもの”を一応の形にできるかもしれない。同時に、プロモーションも考えられる。

中村:たしかに名作と言われるような映画を撮るのは難しいけれど、興行成績を考えた上で赤字にならない映画は、つくれる可能性があるかもしれない。

ハブとして存在しているWebディレクターは共通言語として技術ではなく、費用と時間を用いるので、今後は他の分野でも通用するというスタンスを獲得できると思います。

田口:先ほど、「ディレクター=監督」という点から例に挙げた映画監督との大きな違いは、後世に残るような作品をつくることが難しい点かなと。そう考えると、Webディレクターの次のステップは、依頼者であるクライアントと共に、世の中や社会に良い影響、良い変化を与えるようなコンテンツを生み出し、送り届けることかもしれません。それは、下請け体質というか、受け身姿勢で仕事をこなしているだけでは成立しないことですね。

高瀬:最近は、Webディレクターと近接した役割として、プロダクトマネージャーという肩書きがIT業界で流行っています。要は、Webサービスのマネジメントをしているのですが、例えば「すごく流行っている、あのアプリのプロダクトマネージャーをやりました」というのは、ひとつの大きな実績かもしれないですね。

田口:Webディレクターは、このままだと「Webの便利屋」になってしまうのではという危機感を持っています。 つまり、ただ存在しているだけでは価値を示しにくい立場ではないのかなと。その状況下で「60歳の専業Webディレクター」は、さらにイメージしにくいと思う。

高瀬:たしかにグラフィックにしろ、建築にしろ、50歳や60歳の大御所がいますよね。でもまだWeb業界には60歳の大御所がいない。Webはインターフェイスが変わる業界なので、将来的にはモニターさえ無くなることがありえる。

移り変わりが早いので、どうしたって年齢的な上限が他の業界より早いはず。個人的には現場のディレクターとしては40歳が限界だと思っていて、20代のイキのいいディレクターとは戦えないと思います。

田口:でもやっぱり20年後に、50歳や60歳のWebディレクターのニーズがない世界にはしたくないですね。その年齢、そのキャリアだからこそできる価値提供もあると思っています。

高瀬:そこで必要になるのが、やはり事業理解だと思います。少なくとも40歳までに事業をきっちり把握できるようになって、その先に行くことが大切だと思います。

中村:現在はWebを理解している人と、そうでない人を共通言語で繋げていくことが一般的なWebディレクターの役割になっていますが、今後は自分からプロジェクトを引っ張っていくこともできると思っています。

新しいインターフェイスが出現し、消費者が親しむようになり、そこに企業が投資したいと思っても、プロジェクトをまとめてくれる人がいないと、実現はできないはずです。そうした新しい領域に、Webディレクターの進む先があると思っています。


(宣伝会議 編集部/宣伝会議 AdverTimes)